The Birth of the Button-Down---Written by Masahiro Kogure
名作ボタンダウンシャツは いつごろ誕生したのか?
ボタンダウンシャツ——インディビジュアライズド シャツを愛用している方なら、何枚かお持ちでしょう。襟先をボタンで留めるこのシャツは、アメリカン・トラディショナルを象徴するアイテムのひとつです。では、そもそもボタンダウンシャツはいつごろ誕生したものでしょうか?
ご存じの方も多いと思いますが、このシャツの生み出したのは、1818年創業のアメリカを代表する老舗ブランド、ブルックス ブラザーズです。

『MEN’S CLUB BOOKS No.2 シャツ』(婦人画報社/1984年刊)によれば、「一九〇〇年の頃、ブルックスの一族で当時は既に社長を引退していたジョン・ブルックスが、英国でポロ競技を観戦したとき、選手たちがユニフォームの衿が風であおられないように、先端をボタンで留めていたのを見て思いついた、という半ば伝説化した話がある」(表記は原文のまま)と紹介されています。
つまりボタンダウンシャツは、英国の伝統的なスポーツ・ポロのユニフォームをヒントにして、ブルックス ブラザーズがアメリカで製品化したものなのです。
そのブルックス ブラザーズのカスタムオーダー部門のシャツ製作を長年担ってきたのが、インディビジュアライズド シャツです。
1961年、ジョン・ラ・レスカにより、ニュージャージー州のパースアンボイで創業。当初はわずか30種類の生地を使い、地元テーラー向けにカスタムメイドのシャツを仕立てていました。その後シャツのオーダーシステムを確立し、アメリカ各地の有名百貨店やメンズショップで取り扱われるように。さらには各地で「トランクショー」と呼ばれるオーダー会を開催し、評判が広まって大きく成長を遂げました。いまや日本はもちろん、ヨーロッパからも日々注文が届くほどの存在となっています。

東京・神宮前のオンリーショップ「ユーソニアングッズストア(USONIAN GOODS STORE)」には同ブランドの既製シャツが所狭しと並びますが、この店ではアメリカの紳士淑女たちが楽しむように、いつでもカスタムメイドのボタンダウンシャツを注文することができます。

採寸はサンプルのシャツを着用して行います。基本となるボディは「スタンダードフィット」「クラシックフィット」「アスレチックフィット」など5型。襟型は創業時から続く「BD」や、1980年代に登場した「ユニバーシティ」など、多彩なバリエーションが用意されています。前襟と後ろ襟の高さを変えることができ、襟の芯地の硬さも指定可能。さらに胸ポケットの有無や形状も選べます。生地は500種類以上が揃い、理想の一枚に仕上げることができるでしょう。

ボタンダウンシャツはネクタイを締めても、ボタンを開けてカジュアルに着てもサマになる万能選手。しかし、インディビジュアライズド シャツのものは、すべてドレスシャツと同じ仕様で縫製されています。各所の縫い目を見ればわかるように、非常に細かい運針で仕立てられているのが大きな特徴です。外側に縫い目が出ない袋縫いの「コンストラクションヨーク」や、脇の細巻き縫いなど、随所に職人技が息づいています。

オックスフォードやシャンブレーといったカジュアル生地でも仕様は変わらず、ほかのボタンダウンシャツとは一線を画しています。以前、アメリカの本社を取材した際、ジム・ハイザー社長は、自らのシャツを「テーラードシャツ」と呼んでいましたが、その理由がここにあるのです。
そして、同ブランドが掲げる理念は、「私たちのシャツの完成度は90%で、人が着ることで100%になる」。なんと魅力的な言葉でしょう。一人ひとりにために仕立てられ、着込むほどに着る人の身体とともに完成していく一枚。私自身も何度か注文しましたが、こうして書いていると、また新しいシャツをお願いしたくなってしまいます。どうでしょう、一緒に“自分だけ”のボタンダウンシャツを仕立ててみませんか。
プロフィール
●小暮昌弘(こぐれ・まさひろ)
1957年生まれ。埼玉県出身。法政大学卒業。1982年、(株)婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。1983年から『メンズクラブ』編集部に所属し、主にファッションページを担当。2006年〜2007年に同誌編集長を務める。2009年よりフリーランスの編集者として活動。
