God Is in the Details: A Century of Evolution in the ”Custom-Made” Shirt---Written by Masahiro Kogure

God Is in the Details: A Century of Evolution in the ”Custom-Made” Shirt---Written by Masahiro Kogure


神は細部に宿る、100年の進化が生んだ“カスタムメイド”シャツ


メンズシャツが現在のような形になったのは19世紀末という説が有力です。
ニューヨーク出身のファッションデザイナーで、メンズファッションに関する著作を多く持つアラン・フラッサーという人物がいます。彼は『CLOTHES AND THE MAN(邦題:アラン・フラッサーの正統服装論)』の中で、19世紀のシャツは非常に簡素な作りで、首周りのサイズは3種類しかなく、袖のサイズは1つ、着丈はどれもロングだったと述べています。「体のほうがシャツに合ってくれなければ、それはお気の毒というしかなかったのです」とまで書いています。さらに「腕の長さを測ってシャツを作るようになったのはずっと後で、1920年代に入ってからのことです」とも解説します。身体に馴染むドレスシャツはメンズスタイルの基本アイテムのひとつですが、彼の説から考えると、シャツをオーダーで仕立てる歴史は、せいぜい100年ほどということになります。

インディビジュアライズド シャツは、アメリカで「カスタムメイド」のシャツメーカーとして1961年に創業しました。
「カスタムメイド」という言葉は日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、そもそもこれは顧客の要望に合わせて、既存の製品を調整したり、特別な仕様で仕上げることを指します。


同ブランドの注文の方法は、日本では出来上がりのイメージを想像しやすいようにサンプル用に作られたシャツを着用しながら各所を採寸します。しかしアメリカではフルオーダーで仕立てるシャツ同様に、身体の各部にメジャーを当て、採寸することから始まります。そのため専門店向けに採寸の技術を指導する催しも本社主催で随時開かれているそうです。採寸を終えたら好みの生地や各所のディテールを選び、その指示通りにアメリカの工場で一枚一枚丁寧に仕立てていくというものです。



東京・神宮前にある「ユーソニアングッズストア(USONIAN GOODS STORE)」は、常時このブランドのシャツを「カスタムメイド」できる、日本で唯一のショップです。ここで行っていることはアメリカとまったく同じ。熟練したスタッフが、アメリカと同様の方法で対応し、現地にオーダーしてくれます。



シャツをオーダーする楽しみのひとつが生地選びですが、約400種類の中から好みの生地を選ぶことができます。生地を決めた後は、フィッティングに入ります。本コラム第1回で、インディビジュアライズド シャツの基本スタイルは、「スタンダードフィット」「クラシックフィット」「アスレチックフィット」など5型だと書きましたが、サンプル用のシャツを着用し、各サイズを計測していきます。多くのスタイルでボタンダウン、レギュラー、セミワイドなどの多彩な襟型を選べるほか、前後それぞれの襟の高さまで指定可能。さらに、襟内部の芯地まで選べるあたりがシャツ専業メーカーらしいこだわりといえるでしょう。



続いて、シャツ各所のディテール、カフスやポケットのデザインを決めていきます。カフスは、オーソドックスなラウンド型やスクエア型、日本では「角落ち」と呼ばれるタイプのほか、カフスボタンで留めるフレンチカフスに仕上げることもできます。カフスの幅も「レギュラー」と「ナロー」から指定可能です。もちろん、ポケットのデザインも選べます。オーソドックスなラウンド型を中心に15型が用意されており、中には「シガーポケット」とも呼ばれるペン用にデザインされたポケットまであるそうです。



私が初めてインディビジュアライズド シャツでオーダーしたときは、多くの部分をスタッフに任せて作ってもらいました。すると、出来上がったシャツにはかなり小さなポケットが付けられていたのです。実はそれは女性用にデザインされたサイズのもので、「スタンダートフィット」を基本に、タックアウトして着られるように丈を短くし、全体をコンパクトに見せるデザインにしたため、スタッフが気を利かせて小さなポケットを選んでくれたのだと、後から聞きました。
同ブランドの社長ジム・ハイザーによれば、アメリカでは「ポケットなし」を指定するビジネスマンが圧倒的だそうです。しかし、個人的にはポケット付きが好みです。
90年代のイタリア製シャツを見ると、ほかの国で作られたものより胸ポケットが低い位置に付いていました。ジョルジオ アルマーニのシャツを思い浮かべていただくと、わかりやすいかもしれません。その理由をイタリアのデザイナーたちに尋ねたことがあります。彼らは煙草の箱を指しして、「これを入れてもジャケットのシルエットに影響がでないように」と説明してくれました。確かに、その位置であれば、胸ポケットに物を入れてもジャケットの胸が膨むことはありません。それがイタリア人の美学なのでしょう。



私の場合、胸ポケットに入れることが多いのがスマートフォンです。しかし、かがんだ拍子に落としてしまったことが、過去に何度かありました。スマートフォンは現代人の必携品です。であれば、いっそ「スマートフォン専用ポケット」が考案されてもいいのではないかと、ずっと思っています。次にジムに会う機会があれば、それを直接提案してみようかと考えているところです。

話が少し横道にそれてしまいましたが、「ユーソニアングッズストア」のスタッフは、「カスタムメイド」の組み合わせは「何千、何万通りもあるのではないか」と言います。そもそもインディビジュアライズド シャツというブランド名には「自分のためだけに作られた、世界でたったひとつのシャツ」という意味が込められています。デザイナーになったつもりで、あなただけの「カスタムメイド」のシャツ作りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

プロフィール
●小暮昌弘(こぐれ・まさひろ)
1957年生まれ。埼玉県出身。法政大学卒業。1982年、(株)婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。1983年から『メンズクラブ』編集部に所属し、主にファッションページを担当。2006年〜2007年に同誌編集長を務める。2009年よりフリーランスの編集者として活動。