Kennedy in Button-Downs---Written by Masahiro Kogure
なぜケネディはボタンダウンを
選ばなかったのか
本コラムでは何度か紹介してきましたが、インディビジュアライズド シャツがアメリカ・ニュージャージー州で創業したのは1961年です。
1961年は、ジョン・F・ケネディが第35代アメリカ大統領に就任した記念すべき年でもあります。43歳という若さで大統領の座に上り詰めたケネディ。スポーツマンを思わせる日焼けしたハンサムな顔立ちで、美しい妻ジャクリーヌをともなって歩く姿は、まさに“アメリカン・ドリーム”そのものといえるものでした。

しかし『ケネディの時代』(阿部 斉著/集英社、1984年刊)を読むと、大統領への道のりは平坦ではなかったことがわかります。当時の民主党上院には、ヒューバート・H・ハンフリーやのちにケネディに代わって大統領に就任したリンドン・ジョンソンなど、ケネディよりも政治経験が豊富で、大統領の座に野心を燃やす政治家たちがいました。また、彼がアイルランド系でカトリック教徒であることも国民から支持されるか疑問視されていました。当時のアメリカではいずれも少数派だったためです。さらに、ハーバード大学を卒業した生粋のエリートであることも、必ずしも有利には働かないのではないかといわれていました。「デモクラシーの国アメリカでは、大統領も庶民の一人であることを要求される」と同書には記されています。
1960年の選挙戦で対峙したのは、共和党から出馬したリチャード・ニクソンです。現職アイゼンハワー政権の副大統領で、知名度でも優位に立っていました。選挙前はニクソン優勢、あるいは互角以上と見られていたほどです。
その流れを大きく変えたのが、アメリカ大統領選挙で史上初めて導入されたテレビ討論でした。1960年9月26日を皮切りに計4回が行われ、初回の視聴率は89%に達したといわれています。

カメラ映りの良いケネディは、自身に満ちた態度で国民に若さを印象づけました。一方、病み上がりだったニクソンは途中、何度も汗をぬぐい、自信なさげな印象を与えてしまいます。当時のテレビは白黒であったため、濃い色のスーツを着たケネディは力強く映り、グレー系のスーツを着たニクソンは背景と同化し、顔色も悪く見えたともいわれています。
結果、形勢は逆転。僅差で勝利したケネディが第35代大統領に就任しました。この討論会は、政策以上に「イメージ戦略」が選挙の勝敗を左右する転換点になった出来事として語り継がれています。
選挙戦から大統領時代にかけて、ケネディのスーツスタイルには、それまでの政治家にはないフレッシュさがありました。ウエストを絞った2ボタンモデルのスーツに、シャツはボタンダウンではなくレギュラーカラー。ネクタイもやや細身のものを選んでいます。2ボタンのスーツは、3ボタンのスーツに比べて胸元が広く見え、より堂々とした印象を与えます。それはケネディ自身の好みだったともいわれていますが、それまで主流だった3ボタンのサックスーツに代表されるコンサバティブな装いを、あえて避けていた可能性もあるのではないでしょうか。
では、ケネディはボタンダウンシャツをまったく着なかったのでしょうか。
答えはノーです。
ハーバード大学出身の生粋のアイビーリーガーであるケネディは、オフタイムにはボタンダウンシャツを愛用していました。マサチューセッツ州ハイアニスポートの別荘で、ジャクリーンとヨットに乗る姿を写した写真では、長袖のボタンダウンシャツをロールアップし、カーキのショーツを合わせた軽快な装いが確認できます。そのほかにも、霜降りのスウェットシャツやキャンバスのデッキシューズ、穿き込んだチノパンなど、アイビーリーガーらしいアイテムを好んで身に着けていたとされています。アメリカの老舗トラディショナルブランドの顧客であり、下着に至るまで愛用していたという逸話も残っています。

そう考えると、あえてその路線を避けたのが、ケネディのスーツスタイルだったのかもしれません。なお、彼がスーツのボタンを2つとも留めている写真も残っています。単なるミスだった可能性もありますが、もし意図的であれば、現代でいう “はずし”の感覚を先取りしていたとも考えられます。そうだとすれば、彼はかなりの洒落者だったのかもしれません。

そのスタイル、その行動が世界中から注目されていたケネディですが、1963年11月21日、次の大統領選に向けたキャンペーン中、テキサス州ダラスで凶弾に倒れます。在任期間はわずか1073日、3年にも満たないものでした。それでも彼は、いまなお高い人気を誇り、多くの人々の記憶に残る存在です。これほどまでに世界中で愛され続けているアメリカ大統領は、ほかに例がないといえるでしょう。
インディビジュアライズド シャツを扱う「ユーソニアングッズストア」では、過去にケネディをイメージしたシャツを製作したことがあります。襟はもちろんボタンダウンではなく、レギュラーカラー。いわゆる「ショートポイント」と呼ばれる、やや小ぶりな襟型を採用しました。素材には、THOMAS MASONと協業して開発された「KENNEDY OXFORD」が採用されていました。この生地は「ケネディが着ていそうなシャツ」をテーマに生まれたものと聞きます。さらに襟元には「JFK」のモノグラム刺繍を施すという、スペシャルなデザインに仕上がっています。

ケネディの大統領就任と同じ1961年に創業し、同じ時代を歩んできたインディビジュアライズド シャツ。その背景が感じられる一着といえるのではないでしょうか。ボタンダウンシャツを“選ばなかった理由”に思いを巡らせながら、袖を通すのも、また一興です。
