Ready-Made and Custom-Made : What Makes Them Differente---Written by Masahiro Kogure
既製品とカスタムメイド、シャツに違いはあるのか
アメリカ・ニュージャージー州にあるインディビジュアライズド シャツの工場を、一度だけ尋ねたことがあります。2015年、いまから11年前の春先のことでした。
工場があるのは、マンハッタンからクルマで1時間ほどのパースアンボイという街です。案内してくれた同社社長のジム・ハイザーさんは、「私たちのシャツは工程が多く、何より品質が重要です。だから工場を海外に移転することは考えられない」と語っていいました。

現在のアメリカにおいて、シャツを国内で製作しているショップやブランドはきわめて少数派だと断言できます。しかし、既製品に加えて、個人から注文を受けた「カスタムメイド」のシャツを仕立ているインディビジュアライズド シャツでは、シャツ作りのクオリティを自分たちの身近な場所でコントールする必要がある、と考えたのは確かでしょう。
当時、工場では日産1000枚ほどのシャツを製作していると聞きました。その現場を見てまず驚いたのは、既製品とオーダーシャツが同じ生産ラインで作られていることでした。既製品の間に、個人がオーダーしたと思しき仕様書が添えられた製作途中のシャツが、同じラインに吊るされているのです。

ヨーロッパでも同じようなシャツ工場をいくつか取材したことがありますが、両者は別のライン、あるいは別の場所で製作されていることがほとんどでした。
「昔からをずっと、こうしてやっています。むしろクオリティを一定に保つには、このほうが効率的なんです。ドレスシャツとスポーツシャツも同じラインで作っていますよ」
ハイザーさんにそう解説され、深く納得したことを覚えています。
東京・神宮前にあるインディビジュアライズド シャツのショップ「ユーソニアングッズストア」では、カスタムオーダーのシャツと、ショップで販売されている既製のシャツの違いを尋ねられる方が少なくないそうです。シャツを選ぶ側に立てば、もっともな疑問だと思います。私が答えるとすれば、こうです。両者はまったく同じものです。同じ職人が、同じ仕様で仕立てています。
それは、このブランドの成り立ちを考えれば自然なことです。アメリカのシャツメーカーとしては異例だと思いますが、インディビジュアライズド シャツは、そもそもカスタムオーダーから始まったブランドです。顧客の注文に応じて、シャツを一枚ずつ仕立てることが出発点でした。既製品を手がけるようになったのは、その後のことです。しかし、既製品だからといって仕様やパーツを変えている部分は一切ありません。これは私が断言できます。

以前のコラムでも触れましたが、ハイザーさんが自分たちのシャツを「テーラードシャツ」と表現していました。「テーラード」とは、仕立てるという意味です。「一人ひとりのために合わせてシャツを仕立てる」。それが、このブランドのもっとも大切な信条なのです。
アメリカでは日本以上に体型の幅が広く、既製品がまったく合わない人も少なくありません。ならば、それぞれの身体に合わせてシャツを仕立てよう。そんな発想から、このブランドは生まれたのではないでしょうか。インディビジュアライズド シャツのカスタムオーダーでは、芯地や台襟の高さなど、選べる項目が非常に多いのですが、これもアメリカならではの事情が反映されたものだと推察できます。
インディビジュアライズド シャツは、日本においてはボタンダウンシャツのイメージが強く、カジュアルな装いで愛用されることが多いかもしれません。しかしアメリカでは、インディビジュアライズド シャツを扱うのは、スーツやジャケットなどを併せて提案する著名なメンズショップや、ニューヨークの有名百貨店がほとんどです。注文されるのも、圧倒的にドレスシャツが多いと聞いています。
最近は日本でも同様な傾向が見られますが、アメリカでは身体にフィットした仕立てのドレスシャツを着ることが基本です。全米各地で行われる「トランクショー」では、スタッフが顧客のサイズや好みを直接聞き取り、一人ひとりのためのシャツを仕立てていくそうです。もちろん、スタッフ全員が細かなメジャーリング=採寸を行える知識と技術を持っています。これは日本でも同じだということも、付け加えておきます。

アメリカというと、大量生産で一気にものを作るイメージを抱く人も多いかもしれません。しかしインディビジュアライズド シャツは、その真逆にある存在です。顧客に寄り添い、どこまでも丁寧なもの作りを貫いてきたブランドなのです。
先ほど、既製品とカスタムメイドに差はないと書きましたが、それでも「せっかくなら、違いを出したい」と考える方もいらっしゃるでしょう。そんな方におすすめなのが、カスタムオーダーのなかに用意された「ビスポーク」という、ワンランク上の仕様です。首とボディ、袖とカフスの縫い付けを、職人が一枚ずつハンドソーン=手縫いで行う特別な仕様で、裾の脇部分には「ガゼット」と呼ばれる補強用が配されます。
織りネームは専用のものとなり、ボタンはすべてシェル、つまり素材は天然の貝製です。そして完成したシャツは専用のボックスに収まられて、日本に届けられます。工場には、「ビスポーク」専任の職人もいて、なかでも長年携わっている女性は「ビスポーククイーン」と呼ばれているそうです。11年前、ぜひお会いしてみたかったですね。私はまだ「ビスポーク」のシャツを注文したことはありませんが、その違いをぜひ体験したいと思っています。しかもボタンダウンではなく、アメリカの人たちが着ているようなドレスシャツで———そんなことを、つい想像してしまいます。

